空気の港

「空気の港」について

 空気は、昔、人類にとって何だか分からない、怪しい存在だったと言います。それがガリレオ・ガリレイによって空気に重さがあることが発見され、その後空気の中に窒素や二酸化炭素などの物質が分析されたことで、空気がどんな「物(の集まり)」であるか科学の視点から十分解明されました。そして、現代を生きる私たちにとって、空気はあたりまえの存在となりました。しかし、「空気」は私たちにとって本当に明らかな存在になったのでしょうか。

 デジタルパブリックアートプロジェクトは、メディア技術を用いたパブリックアートの創成を目的とした研究プロジェクトです。本展「空気の港」は、「最先端のメディアテクノロジー」と「空気」を皆さんに感じていただけるような作品で構成されています。

 まずメディアの将来といった時に、人類にとって「空気」の存在が怪しく感じられた段階まで遡らなくてはならないと考えました。メディア技術が発達すると、そのサイズはどんどん小さくなり、いずれ目に見えない空気のような存在になってゆくでしょう。それはとても便利なことですが、逆に犯罪やプライバシー等、人々を不安に陥れる要素も多くなります。ユビキタスの究極のかたちは「空気」です。
 「空気」の存在に対する考え方を一回リセットし、新たに考えてみることで、「メディア」の将来の姿を描けるのではないかと考えています。

 次に、私たちはパブリックアートに不可欠な「場所」に出会うことができました。  空港という場所は、多くの人や飛行機や荷物が行き交う場所であると同時に、さまざまな空気が行き交う場所であるとも言えます。「空港=空気の港」であり、飛行機は人や物と一緒に空気も運んでいます。空席は空いている席であり、空気の席でもあります。
 「Please watch your step」というのは、空港のロビーへと上っていくエスカレーターで流れていたアナウンスです。この言葉は、インフォメーションが多過ぎて逆に無効化されている情報社会について考えさせられるとともに、自分の身を振り返るきっかけを作ってくれました。空港という場所は、アート作品を鑑賞するための場所ではありませんが、日常と連続しながらも非日常である不思議な「空間」です。そこに訪れた人自身が「作品」となることで、自分の日常を振り返り、新たな自分に気付き、自分の内面へと離陸していく場所、それが「空気の港」なのです。


東京大学先端科学技術研究センター 特任助教/アーティスト 鈴木康広